
「筋肉の衰え」というと、運動不足や加齢によるものだと考えられがちです。しかし近年の動物実験から、歯周病による慢性的な炎症が、筋肉の量や質にまで影響を及ぼす可能性が指摘されています。今回は、歯周病と筋肉の関係について、研究段階の知見も含めてご紹介します。
サルコペニアの新しい診断基準
筋肉量や筋力が低下する状態は「サルコペニア」と呼ばれます。これまでは65歳以上が主な対象とされてきましたが、近年の議論では対象年齢が50〜64歳まで引き下げられ、握力の基準も男性34kg・女性20kgと、より厳しい数値がアラートとして設定されるようになりました。
また、これまでの診断基準では身長で補正した筋肉量を用いていたため、見た目は普通体型でも、筋肉に脂肪が入り込んだ「隠れサルコペニア」を見逃してしまうことがありました。BMIで補正する新しい基準では、こうした隠れた筋肉の質の低下も拾い上げやすくなっています。
歯周炎マウスの実験でわかったこと
動物実験のレベルではありますが、歯周炎を起こしたマウスを対象にした研究で、興味深い結果が報告されています。歯周組織の炎症が血流を介して全身に影響を及ぼし、骨の質が落ちるだけでなく、ふくらはぎに相当する筋肉(ヒラメ筋・腓腹筋)にも変化が生じることが確認されました。具体的には、筋肉を萎縮させる遺伝子(Atrogin-1など)の発現が増え、筋肉への糖の取り込みも低下していたということです。
これはあくまでマウスを用いた基礎研究の結果であり、ヒトでそのまま同じことが起こると断定できるものではありません。ただ、口の中の慢性炎症が離れた場所の筋肉にまで影響しうるという視点は、全身の健康を考えるうえで示唆に富むものだと感じています。
筋肉の「量」だけでなく「機能」も見る視点
筋肉に関しては、量だけでなく機能面からの評価も重要になってきています。たとえば、ビタミンDが不足した状態(血中の25(OH)ビタミンD濃度が20ng/ml以下)では、筋肉の量自体はまだ保たれていても、先に筋力だけが低下することが報告されています。
そのほか、採血だけで分かる指標として「クレアチニン/シスタチンC比(CCR)」も注目されています。腎機能の影響を受けにくく、筋肉の量だけでなく、脂肪が入り込んだ筋肉の「質」とも関連することが地域住民を対象にした研究から見えてきました。血管を広げるホルモンである「アドレノメデュリン」も、筋肉に脂肪がたまり血流が悪化した際に分泌が増えるため、筋質悪化のサインとして期待されています。
お口の炎症を放置しないという選択
これらの知見はまだ発展途上の分野ですが、歯周病による慢性炎症を早い段階でコントロールしておくことは、お口の健康だけでなく、将来的な筋肉や全身のコンディションを守ることにつながる可能性があります。歯ぐきの腫れや出血が気になる方は、症状が進行する前に一度チェックを受けることをおすすめします。
当院では、歯ぐきの状態のチェックに加え、筋肉量や栄養状態まで含めた全身の老化リスクを一緒に読み解く検査・カウンセリングを行っています。気になる症状や不安なことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
監修:手塚充樹(ヘルシーライフデンタルクリニック 院長・歯科医師/博士(歯学))












